前回の記事では“新作の考え方”をテーマにお伝えしましたが、今回はもう少し基本に立ち返って、ショップ全体の“軸”を考えるコツをご紹介します。
新作づくりだけでなく、ショップの商品構成を考えるうえで大切なのが、「どんな人に買っていただきたいか」をはっきりさせること。
いわゆる“ペルソナ設定”ですね。
ペルソナとは、「あなたのショップでいちばん喜んでくれる理想のお客さま像」のこと。
年齢・性別・職業・ライフスタイル・価値観・悩みなどを具体的に思い描くことで、その人が求める機能やデザインが見えてきます。
そして、それが結果的に統一感のある商品ラインナップへとつながります。
私自身、ネット販売を続けるなかで、このペルソナ設定の重要性を何度も実感してきました。
ただ作りたいものを並べているだけでは、ショップページがごちゃついて見えてしまい、お客さまにとっても「自分に合うかどうか」がわかりにくくなってしまいます。
たとえば、きれいめなトートバッグを探している人があなたのショップを訪れたときに、アウトドア向けのカジュアルなバッグが一緒に並んでいたらどうでしょう?
「このお店、本当はどんな雰囲気なんだろう?」と迷わせてしまい、せっかくの購入チャンスを逃してしまうかもしれません。
対策として、もし「きれいめ」と「カジュアル」の両方を取り扱いたい場合は、ショップを2つ作るのもひとつの方法です。
テイストごとにターゲットを明確に分けてあげることで、それぞれのお客さまに伝わりやすくなります。
「新作の考え方」については、前回の記事で詳しくご紹介しています。

ペルソナ設定の重要性
ペルソナとは?
ペルソナとは、「あなたの商品をいちばん喜んでくれる理想のお客さま」のことです。
もしまだ設定していなければ、今からでも考えてみましょう。
身近な人を思い浮かべてもいいですし、架空の人物でもかまいません。まずは頭の中でイメージしてみてください。

思い浮かべたら、できるだけ具体的に言葉にして書き出してみましょう。箇条書きでOKです。
ちょっと難しいなと感じた方は、以下の項目を参考にしてみてください。
- 年齢・性別
- 家族構成
- 職業
- 趣味
- 悩みごと
- 住んでいる場所(都市部?田舎?)
- 普段の活動内容(仕事・買い物・習い事など)
- 主な移動手段(車・電車・自転車など)
- 好きな洋服のテイスト
- 好きなインテリアの雰囲気
- 普段読む雑誌やSNSの傾向
このように人物像をイメージしておくと、「この人に向けて作ろう」と気持ちが定まり、作品の雰囲気や伝えたいことがまとまりやすくなります。
たとえば「50代のお出かけが好きな女性」なら、落ち着いた色味で、肩にかけやすく、服装にもなじみやすいバッグを作りたいな…という方向性が見えてきますよね。
買ってほしい人を思い浮かべながら作ることで、作品づくりもショップ全体も、自然と統一感のあるものになっていきます。

「こんなに細かく考えないといけないんですね…ちょっと難しそうかも。」

「最初は2〜3項目だけでも大丈夫です。イメージがふわっと湧けばOKですよ。」
ペルソナを設定するメリット
ペルソナを決めておくと、お客さまにあなたの作品が「自分のためのものだ」と伝わりやすくなります。
ショップに並ぶ作品の雰囲気がそろっていれば、訪れた方が迷わず見て回れます。
たとえば、シンプルで上品なバッグが並んでいるショップに、急にアウトドア向けの派手なバッグがあったらどうでしょう?
「え?このお店ってどういうテイストなんだろう?」と戸惑ってしまいますよね。
ペルソナを意識して作品を作ると、商品設計もぐっと考えやすくなります。
たとえば、「30代で小さなお子さんがいる働く女性」というペルソナなら、
通勤や保育園の送迎などを考えて、両手が空くリュック型で、職場でも浮かないようなシンプルなデザインのバッグがぴったりだな、と自然にイメージできます。
こうしてペルソナを明確にしておくと、「このお店、私にぴったり!」と感じてもらえるようになります。
気に入ってもらえれば、他の商品も見てみようと思ってもらえますし、リピートにつながることもありますよ。
そのペルソナにとって「どんなバッグがあったらうれしいかな?」と考えるために、まずは身の回りのことをじっくり観察してみるのがおすすめです。
実際のお客さまの声を参考にするのも、ペルソナを深めるヒントになります。

日常を観察して“気づき”をためるコツ
ふだん使うモノを観察する
自分がよく使っているモノを見直してみると、作品づくりのヒントが見つかります。
身近なモノには、「こうだったらもっと使いやすいのに」といった気づきがたくさん隠れているからです。
たとえば、「スマホがすぐバッグの中で行方不明になる…」と感じたら、スマホ用のポケット付きバッグがあったら便利かも、と思えますよね。
まずは、日ごろよく使っている持ち物をじっくり見て、小さな不便がないか探してみましょう。
また、自分の体験だけでなく、ネット上でもヒントを集めることができます。
通販サイトの商品レビューなどを見ると、「こうだったらもっと良かったのに」という声がたくさん寄せられています。
すべてを取り入れるのはむずかしいかもしれませんが、アイデアの種としてとても参考になりますよ。
行動シーンを切り取る
どんな場面で使うかを想像してみると、「こうだったら便利なのに」というアイデアが思い浮かびやすくなります。
というのも、行動中のちょっとした不便が、そのまま作品の工夫につながるからです。
むしろ、「ふだん使うモノを観察する」よりも、こちらのほうが大事かもしれません。
たとえば、スーパーのレジ前で「小銭がすぐ出せたらいいのに」と思ったら、外ポケット付きのバッグが便利かも、という発想になりますよね。
ほかにも、「バッグのフタを開けずにスマホを取り出したい」と感じたら、外側にスマホポケットをつける、「リュックを背負ったまま荷物を取り出したい」と思えば、背中側にポケットをつけてみようかな…というように、使い方の工夫が自然と見えてきます。
通勤・お出かけ・買い物など、日常のいろんな場面を振り返って、どんな不便があったかをメモしてみると、アイデアのヒントがたくさん見つかりますよ。

「こんなことまでメモする意味あるのかな…?」

「あるんです!“たいしたことじゃない”と思うことほど、
あとで役に立ったりしますよ。」
実際の気づきを形にしていく
気づきメモ

日々の暮らしの中や、なんとなく見ているSNS・ネットから「これ、ちょっと不便かも?」と感じたことを、どんどん書き留めていきましょう。
たとえば、私のメモにはこんなことがあります:
- 改札を通るとき、バッグが邪魔でICカードが出しにくい
- カフェでバッグを床に置いたら、汚れが気になった
- リュックを背負うと肩が痛くなることがある
- バッグの中がすぐごちゃつく
こんなふうに、ふとした瞬間に感じたことや気づいたことを、そのままメモしておきます。
ポイントは、「これくらい気にしなくていいかな」と思うような小さなことも書いておくことです。
あとで見返したとき、そういった小さな“モヤモヤ”が、作品づくりのアイデアに変わることがよくあります。
アイデアが形になったバッグ
先ほどの“気づきメモ”から、実際に形にしたバッグの例をご紹介します。
- 改札で困った → 小さなICカードポケットを外側につけたショルダーバッグ
- カフェでの汚れ対策 → 底に撥水加工をしたトートバッグ
- 肩の痛み → 細めの持ち手にパッドを入れて負担を減らしたバッグ
- バッグの中のごちゃつき → 中に仕切りをつけたバッグ
このように、ちょっとした気づきから少しずつ工夫を加えていくことで、ペルソナに寄り添った作品が自然と出来上がっていきます。
特別なことをしなくても、日常の中にはアイデアのヒントがたくさん隠れているのだと、私自身も感じています。
―――
と、ここまでは「気づきをもとに、丁寧に作品を作っていく」という前提でお話ししてきました。
ここからは、その気づきを自分の商品にどこまで落とし込むかについて考えてみたいと思います。
実際に商品を作っていく
あなたらしさをつける

日々の気づきをもとに商品を作ることは、とても大切なことです。
でも、そこだけに注目しすぎると、「なんだかどこかで見たことがあるような商品」になってしまうことがあります。
いわゆる、“どこにでもある商品”です。
そうなると、どうしても価格で比べられてしまいます。
個人のハンドメイド作家が価格競争に巻き込まれてしまうと、なかなか太刀打ちできません。
では、どうしたらいいのでしょうか?
答えは、ほんの少しだけ「あなたらしさ」を加えることです。
少しだけ、自分の好みやこだわり、世界観を表現してみましょう。
その「少しの個性」を「いいな」と思ってくれるお客さまは、きっといます。
似たような作品がたくさんある中で、そのわずかな違いに惹かれて、あなたの商品を選んでくださるのです。
ペルソナや世界観を伝えるには、作品の写真も大事な要素。

強みを出す
個人で活動するいちばんの強みは、「臨機応変に対応できること」だと私は思っています。
私が実践しているのは、受注制作でセミオーダーのスタイルにすることです。
少しだけ個性を出したテイストを気に入ってくれたお客さまが、「ここにこんな機能があったらもっと便利かも」と、自分の使い方に合った形にアレンジできるようにしています。
つまり、見た目が好みのバッグに、自分の希望する機能を組み合わせて、“自分だけのバッグ”が出来上がるんです。
これはお客さまにとって、とても満足度の高いお買い物になります。
ここで大事なのは、あえて“セミオーダー”にしているということです。
フルオーダーは、やりとりの中で行き違いが起きやすく、トラブルにつながることもあります。
主体はあくまでこちらにある状態で、「できる範囲のカスタマイズ」にとどめておくと、無理がなく、お客さまにも安心していただけます。

「なるほど!でもフルオーダーはやっぱり大変なんですね」

「はい、自由度が高い分トラブルの元にもなりやすいので、“できる範囲”でお受けするのが安心です。」
まとめ
今回は、作品づくりの基本として「ペルソナを考えること」や「日常の中で気づきをためていくこと」、そして「その気づきをどう商品に落とし込むか」についてお話ししてきました。
自分のまわりを少し観察するだけで、「こうだったらいいのに」というヒントはたくさん見つかります。
それをメモして、少しずつ形にしていくことで、自然とペルソナに寄り添った作品ができあがっていきます。
さらに、あなたらしさをほんの少し加えることで、同じような作品の中から選ばれる“理由”が生まれます。
そして、個人だからこそできる臨機応変なスタイルも、大きな強みです。
私は受注制作をベースに、セミオーダーでご希望を反映させる形をとっていますが、どこまで取り入れるかは人それぞれ。
無理のないやり方で、「ちょっと特別な一品」を目指してみてください。
まずは、小さな「気づき」から。
今日の暮らしの中で「ちょっと不便だな」と思ったことを、ひとつだけメモすることから始めてみましょう。
そこから新しい作品の種が生まれるかもしれません。
ペルソナに合った作品ができたら、次は価格や販売先をどうするかも考えたいところです。


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